車で職場に通勤している。朝の通勤時、ほとんど同じ場所で同じ時間に見かける女性がいる。大柄だが、色白で面長で大きな綺麗な瞳、長い白髪、重たそうな布バックを左の肩にかけ、そのせいか、斜めに肩をかたむけるような歩き方をしている。50代くらいだろうか。
通勤する10数人の集団に混じって、彼女が目立つのは、なんといってもその「なまあし」である。
夏の暑い盛りではない。凍てつくような冬の朝でも「なまあし」。通勤集団の人たちは、ダウンジャケットや厚手のコートに身を包み、体を縮めるように歩いている。彼女は、大柄な体をすこし前のめりで「なまあし」。ソックスは履いている。短いブーツも履いている。色白な彼女はよけい白い足が目立つ。信号待ちの私は車の中から見ている。横断歩道をわたる通勤集団の中にその人はいる。
妄想してしまう。冬の寒風にさらすと肌が強くなるのか。宗教上の理由か(あまり聞いたことはないが)。健康法なのか。願掛けをしているとか。
どこから通勤しているのだろう。決まった時間に歩いているのできっと電車で通っているに違いない。どういう仕事をしているのだろう。会社員だろうか。
妄想はどんどん膨らむ。デザイナーとか、工房の職人とか、少し特殊な技術を持っているとか。
朝、彼女に会えないと、「土曜日だからかな。私が遅くなったせいかな・・」。ちょっと落ち着かない気分になる。
6月になった今、暖かくなり、通勤集団の人の服装も色とりどきに明るくなり、「なまあし」も目立たなくなった。
しかし、私の眼はやっぱりその人の「なまあし」に吸い寄せられる。彼女の趣味だとか個性と言ってしまえばそれだけだが、すくなくても私という人間にとってはとても「気になる女性」なのである。通勤集団で一人個性を発揮する「人」としての存在にとても興味がわく。妄想はふくらむ。
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