雲を紡ぐ

読書

伊吹有喜さんのこの作品は2020年第163回直木賞候補となった。

岩手県民はこの作品が直木賞を受賞することを、強く期待していたと思う。岩手の魅力満載だから。

不登校になった高校2年生の美緒は両親のこじれた関係から逃れるように新幹線に飛び乗り、盛岡に向かう。そこでは祖父が羊毛を手仕事で染め、紡いで織る工房を営んでいた。手伝ううち、いつしか美緒は「自分の色」を紡ぎたいと思うようになる。時を超える布《ホームスパン》を巡る感動作

雲を紡ぐ 表紙より

美緒がホームスパンに魅せられて自分で羊毛を紡ぎ始める話だが、祖父の紘治郎とその妻、父親の広志、その妻の真紀それぞれの関係性をも問い直す。同時にそれぞれが自分は何をしたかったのか、そしてこれから何をしたいのかを問う話である。

ホームスパンの魅力はもちろん存分に描かれているが、私は盛岡のこまごまとした魅力が丁寧に描かれていることに驚いた。

岩手県の県名の由来になったという説がある和歌の下句

『言わで思ふぞ 言ふにまされる』は

言えないでいる相手を思う気持ちは、口に出して言うより強いという意味だそうだ

沿岸では「じぇじぇじぇ!」(あまちゃんで有名になった)というが盛岡では「じゃじゃじゃ」という

驚いた時に使う方言。

『ずぐたれ』ー意気地なしという意味の方言。思わずふふっと笑ってしまう。

町家の説明の中に出てくる《常居(じょい)》という部屋の名前は、《常に居るところ》

だからだそうだ。私もお年寄りに教えてもらって感心した覚えがある。    

美緒が苦しい時、つらい時にくるまる赤いショールは

宮沢賢治『水仙月の四月』に出てくる赤い毛布(ケット)と結びつく

どれも知る人ぞ知る美味な、クルミゆべし 焼酎糖 黄精飴などのお菓子や、

盛岡人のソウルフード福田パン・・・

喫茶店は何件登場するだろう。

~機屋、ふかくさ クラムボン チロル 可否館 カルタ~ 

もちろんその他にも美味しい喫茶店は盛岡にはたくさんあるが。

なるほど、2023年1月12日付けの、アメリカのThe New York Times(ニューヨーク・タイムズ)

「52 Places to Go in 2023 (2023年に行くべき52か所)」の中で、イギリスの首都ロンドンに続く

2番目に盛岡市が紹介されるわけですね。

ホームスパンと岩手の魅力満載の「雲を紡ぐ」面白かった。

祖父の紘治郎も潔さも良かった。

きっぱりと老いがきた(Y)

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